大正時代に近代詩の新しい地平を拓き「日本近代詩の父」と称される萩原朔太郎(明治19年-昭和17年)。
代表作に、詩集『月に吠える』、『青猫』、小説『猫町』などがあります。
朔太郎はこれまでの形式美を重んじる短歌や俳句から、もっと自由な構成で日常的な言葉で日常的なものを題材とした近代詩を確立しました。
昭和8年に世田谷区代田一丁目に自ら設計して自宅を新築。
彼が設計した和洋折衷の斬新なデザインの新居は、代田の丘の駒沢線61号鉄塔のすぐ下でした。
朔太郎の娘、作家萩原葉子がこの鉄塔について『蕁麻(いらくさ)の家』でふれています。
私は高圧線の鉄塔の中途で足を押さえられた。日暮れを待って、頂上目がけて夢遊病社みたいに登った私は与四郎に見つけられ、引きずりおろされたのである。
萩原葉子 蕁麻の家 1997年 講談社学芸文庫
朔太郎も『青猫』で、鉄塔について
「都会の空に映る電線の青白いスパークを大きな青猫のイメージに見てゐるので、当時田舎にゐて詩を書いていた私が、都会への切ない郷愁を表象している。」(「定本青猫」萩原朔太郎 日本詩人全集14 新潮社 昭和四十一年刊)
代田の町の日常の風景となっている「代田の丘の駒沢線61号鉄塔」も、朔太郎に思いを馳せるとまた一味違った風景となります。